母
母は働き者だった。 父の事業が上手く行かない時は、和裁の仕立ての腕一本で家を支えてくれた。 父がアルツハイマーになった時、母の口癖は「お父ちゃんは私の宝じゃ」だった。 父にその言葉は届いたかどうかわからないけど、いつもいつも言っていた そして…
母は大正の生まれ、女子師範に行って学校の先生になりたいと願ったけれど、 父、所謂、私の祖父に手に職をつけなさいと、寄宿舎のある和裁学校に進んだのだ。 多くの生徒と寝起きをともにしつつ、和裁を学んでいた。 そんなある日、他の生徒のお茶碗を着物の…
去年の10月の半ば、最初の抗がん剤の投与が終わって、思ったことは 本格的に終活を始めなくてはいけないなという事だった。 そんな中で、いつかは着るだろうと楽しみにしつつ しまったままのたくさんの着物の事を思った。 母は私の為に色々な折に必要なたく…