母の口癖
母は働き者だった。
父の事業が上手く行かない時は、和裁の仕立ての腕一本で家を支えてくれた。
父がアルツハイマーになった時、母の口癖は「お父ちゃんは私の宝じゃ」だった。
父にその言葉は届いたかどうかわからないけど、いつもいつも言っていた
そして、父が亡くなった後、1週間ほど実家にいた。
その時、縁の下から猫の鳴き声がした。
私は縁の下にもぐり、子猫が鳴いているのを見つけ、抱き上げて連れ出した。
そして、その子猫は母の飼い猫になった。
母の口癖は「この子は私の宝じゃ」に変わった。
私のこの頃の口癖は我が家の猫を「宝物よ」という言葉なのだ。
言うことが母に似てきたな思と思いつつ、それとともに、
猫を「宝物よ」といいつつ、娘達や孫達が宝物だと実感する。
母は父が言葉が全部わからない頃に「お父ちゃんは宝物」と言い始めた。
言葉がわからないともに暮らしている子猫を「宝物」と言っていた。
母も私も、わざわざに子供や孫の事を「宝物」とは言わない。
言わないが、母は子猫の事を「この子は宝物じゃ」という度に、
子供や孫への深い思いを実感していたのだろうと思う。
私がそうであるように。